リビング・モダニティ today
『リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s–1970s』関連企画
会期: 2025年3⽉19⽇(⽔)–6⽉30⽇(⽉)
会場: 国⽴新美術館 企画展⽰室1E / 2E(東京‧六本⽊)
カール・ハンセン&サンは国立新美術館で開催中の企画展『 リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s 』の関連企画として「リビング・モダニティ today」と題した展示を同会場で行っています。
カール・ハンセン&サンは、デンマーク近代化の父と称され、デンマーク機能主義建築初期の傑作を数多く残したヴィルヘルム・ラウリッツェンが自身の建築のためにデザインし、これまではその建築を訪れた人しか体感することができなかった家具の製品化を近年すすめています。「リビング・モダニティ today」展示ブースでは、カール・ハンセン&サンが製作するヴィルヘルム・ラウリッツェンがデザインした家具の全貌をご体感いただけます。
ラウリッツェンの家具デザインに見られるクラフトマンシップや素材へのこだわり、オーガニックで美しいシンプルなフォルム、そしてなにより家具を使う人への細やかな配慮などは、デンマークモダン家具デザインが目指し、今も大切にしているフィロソフィーです。
「リビング・モダニティ today」の展示ブースでは、デンマークモダン家具デザインの父と言われるコーア・クリントの作品のみならず、彼のデザイン観のもと、第二次世界大戦後の市民のために、豊かな暮らしを支える家具デザインを追求したボーエ・モーエンセンによる作品や、ハンス J. ウェグナーの作品も併せて展示しています。デンマークモダン家具デザインの主流ともいえるデザイン哲学に触れるきっかけを、この展示にてご案内できましたら幸いです。
リビング・モダニティへの挑戦はいまを生きるデザイナーによっても行われています。
異素材をミックスすることで、機能的で軽やかなデザインを生み出し、デザインプロセスを詩になぞらえる3人のオーストリア人デザイナーによるデザインスタジオEOOS(イーオス)の作品や、オーガニックなフォルムの中で、「いまここに人が集い、会話することを促したい」と願うデンマーク人デザイナーリッケ・フロストによる作品も展示されます。これらが生み出す空間もまた、カール・ハンセン&サンが提唱する現代の住まい、暮らしの提案のひとつです。
ヴィルヘルム・ラウリッツェン
1894-1984
展示番号①-③, ⑧,⑨
ヴィルヘルム・ラウリッツェンは、デンマークを代表する建築家であり、デンマークモダニズムの父とも呼ばれています。
今日、彼が手がけた多くのプロジェクトは、当時としては画期的な機能主義建築の好例として残されています。
彼はそのキャリアを通じて、建築は一部の特権階級のためだけでなく、すべての人のために役立つ応用芸術であるべきだと主張しました。ラウリッツェンの代表的な作品には、その後の数多くの空港ターミナル建築の模範とされたコペンハーゲン空港の最初のターミナル(1939年)、フレデリクスベアにある国営放送局の建物ラジオハウス(1945 年)、コペンハーゲンのコンサートホールVega(1956年)などがあります。
ヴィルヘルム・ラウリッツェンは、1894年9月10日、デンマークのスレイーズという町で生まれました。コペンハーゲンの王立芸術アカデミーの建築学部を1921年に卒業し、その翌年Tegnestuen Vilhelm Lauritzen (現在のVilhelm Lauritzen Architects) を設立しました。
ラウリッツェンのデザインは、空間や形状は何世代も持ちこたえるべきものだ、という明確な思想を表現しています。建築において長年焦点となっていたのは、建築物の形状や装飾です。ヴィルヘルム・ラウリッツェンは、そこに自由な発想と機能性を重視したアプローチをしました。そこから数多くのシンプルかつ機能性に優れた作品が生み出されました。
モダニストとしてのラウリッツェンの才能はインテリアデザインにも及び、ドアハンドル、灰皿、手すりからランプ、ソファ、椅子まで、あらゆるものを生み出しました。一部の家具は、1934年から1945年までの11年間、彼のデザインスタジオで働いた建築家フィン・ユールと共同でデザインしたものと考えられています。
デンマーク国営放送局の建物として1945年に完成したラジオハウスは細部に至るまでラウリッツェンの美学が反映された傑作と知られ、VLA75・76・77(①-③)はそのエントランス(ホワイエ)用にデザインされたものです。
建築設計時に在籍していた建築家フィン・ユールの作品にも通じる浮遊感のある木部やクッションの造形、ネジ隠しの真鍮パーツなどにラウリッツェンが目指したオーガニックなデニッシュモダンデザインが表現されています。
コーア・クリント
1888-1954
展示番号④
デンマークモダン家具デザインの父と称され、歴史のなかで培われてきた家具様式や幾何学的なデザイン美学を重視しつつ機能性にも配慮した数々の名作家具デザインを残しました。
特にデンマーク王立芸術アカデミーに家具デザインを専攻とする科としては世界初の例と言われる「家具科」を1924年に創設し、後に教授に就任。デザイナーとしてだけでなく、教育者としてもその後の数多くのデザイナーに大きな影響を与えました。過去から連綿と続く美しい家具様式・比率などと、実測に基づく現代の暮らしの分析とをいかに統合して作品化するかを「リ・デザイン」というデザイン観で表現し、その考え方は今もデンマーク家具デザインのバックボーンとなっています。
ボーエ・モーエンセン
1914-1972
展示番号⑤,⑥
第二次世界大戦後の家具デザインを牽引したデザイナーとして知られ、主に庶民の暮らす住宅向けにシンプルで機能性に優れた木製家具を数多く発表したことから、デンマークの暮らしのデザインを根幹から大きく変えたデモクラティック・デザインの先駆者といわれています。
1934年に家具職人としての修行を終えたのちに、デンマーク王立芸術アカデミーでコーア・クリントに学び、クリントが唱えたデザイン手法や、その思想に深く傾倒しました。しかし、華々しい場所に置かれる家具をデザインしたクリントに対し、モーエンセンは第二次世界大戦後の一般市民のための家具を中心としたデザインを多く残しました。
ハンス J. ウェグナー
1914-2007
展示番号⑦
ハンス J. ウェグナーはデンマーク家具デザインの歴史の中でも特に創造性と独創性に溢れたデザイナーであり、20世紀を代表する家具デザイナーともいわれています。
優れた家具職人となったのちにデザインを学んだことで、職人的な知見に基づく優れた耐久性と彫刻的なデザインを数多く残したことで知られています。同じ年に生まれた
ボーエ・モーエンセンとは生涯にわたる親友であったことも知られ、コーア・クリントのもとで学んだモーエンセンから聞くクリントの考えるデザイン観はウェグナーにも多大な影響を与えたと言われています。
日本では「Yチェア」として知られるCH24は、リビング空間でもダイニング空間でも利用可能な機能性と美しさを持ち、生涯に500脚を超える椅子のデザインをしたと言われるウェグナーの代表作のひとつです。CH24 チルドレンYチェア(⑦)はウェグナーの生誕110周年を記念して子供用に約30%小さくリサイズされた未来の暮らしの担い手たちのための家具です。
リッケ・フロスト
1973-
展示番号⑪-⑭
デンマーク家具デザインのネクストクラシックを担うデザイナーのひとりと目され、伝統的な技巧や素材の新しい使い方を追求しているデザイナーです。
新鮮なテイストとクラシックなデザイン手法や素材が駆使されたオーガニックな形態のソファRF1903からスタートとし、サイドウェイシリーズと名付けられた⑪-⑭は、デジタルな繋がりではなく、いまここに人が集い、会話するための家具というコンセプトのもとにデザインされたものです。
人の気持ちを穏やかにさせ、自然と座る人同士の目線が交差し会話が始まるような柔らかなフォルムには「形は人の行動を促す」と考えるリッケ・フロストのデザイン哲学が反映されています。特に一人掛けラウンジチェアRF1904(⑬)とコーヒーテーブルRF1905(⑭)は2024年に発表されたシリーズ最新のデザインです。